賃上げ無き円安「日本を滅ぼす」

「本来は自国の通貨が安くなって喜ぶ国民はいない。円安が良いとの誤った考えが広がったのは、円安になると、製造業など輸出をする企業の日本円で見た利益が一時的に増えるから。
但し、それには二つのトリックがある。企業は円安で上がった輸入価格の上昇を消費者価格に転換してきた。また、賃金は上げてこなかった。
国内では同じ賃金をもらっていても、ドルで評価して国際的に見た場合は賃下げになる。国民の犠牲で企業は利益を上げた」
「今回はロシアのウクライナ侵攻で原油など資源価格が上昇した。円安進行が急激で原材料価格の上昇を全て価格に転換できず、企業も円安を望ましいと言えなくなってきた。
中小・零細企業ほど苦しい。輸入価格の上昇は、数カ月遅れて消費者物価に反映される為、六月頃に値上げラッシュが起こるだろう」
日銀は「過度に急激な変動はマイナスに作用する」としつつも、金融緩和を継続しています。
「信じられない事だ。米国はインフレを抑えようと利上げに向かっている。日米の金利差が広がると、円安が加速する。
世界中の中央銀行が競って利上げする中で、日銀は三月下旬に国債を特定の利回りで無制限に買い入れて金利を抑え込んだ。国民に負担を強いる円安阻止は中央銀行の重要な責務のはずだ」
「円安になれば企業は何もしなくても利益が膨らんだ。麻薬のようなものだ。二〇一〇年前後の円高には、金融緩和でなく世界の変化に合わせて新しい技術やサービスを開発し、
産業構造を変える事で対処すべきだった。日本は二十年間、努力を怠った。産業構造の変革なければ、賃上げと正常な物価上昇はありえない」
円安を止めるには。
「長期金利の上昇を容認し、金融緩和策を一日も早く止めるべきだ。金利の上昇で将来の政府債務の利払いが増えたり、住宅ローンの金利が上がったりするなど、もちろん影響はゼロではない。
しかし、それより、賃金が上がらない中で物価が上がり続ければ、国民の生活が立ちゆかなくなり、国が崩壊する。
円安が止まれば、生活必需品の値上げも緩和される。政府は補助金支給などの小手先の物価対策をやりべきではない」
「アベノミクスの円安でも実質賃金は上がらず、日本の労働者は国際的に見て貧しくなった。賃金の低い日本に働きに来る外国人はいなくなり、日本の若者は海外に出稼ぎに行くだろう。
日本の国際的地位は70年代後半までに低下し、まさに今、先進国から脱落しようとしている。日本企業も円安という麻薬に依存するのではなく、遅れていたデジタル化で生産性を高めるべきだ」
野口悠紀雄 一橋大学名誉教授 談

日銀の黒田総裁の根底にあるのは、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
その日銀の黒田総裁の任期が8日で残り1年となります。
原材料価格の高騰を受けて、物価上昇が今月以降、目標に掲げている2%に達するという見方が強まっていますが、黒田総裁は賃金や需要の押し上げを伴っていないとして大規模な金融緩和を続ける方針を示しています。
一方で、金融引き締めに転じる欧米との政策の方向性の違いから円安が進み、家計や企業の負担も増えていて、残る1年は金融緩和と円安、物価上昇とのはざまで極めて難しいかじ取りを迫られることになります。
2013年3月に就任し、在任日数が歴代最長となっている日銀の黒田総裁は、来年4月8日までが任期となっています。
デフレ脱却に向け、2%の物価上昇を目標として大規模な金融緩和に踏み切り、これまで9年間、形を変えながら金融緩和を続けてきました。
こうした中、エネルギーなど原材料価格の高騰の影響で、消費者物価指数の上昇が今月以降、2%に達するという見方が強まっています。
しかし、黒田総裁は賃金の上昇や需要の増加を伴っていないなどとして、金融緩和を継続する方針を示しています。
一方で、インフレへの懸念が強まるアメリカなどは金融引き締めに転じていて、政策の方向性の違いから円安が加速する形となっています。
金融緩和を続ければ一段と円安や輸入する原材料の価格上昇が進みかねず、それを抑えるため金融引き締めに転じれば景気を冷え込ませかねないという状況に直面していて、
残る1年は極めて難しいかじ取りを迫られることになります。
さらに、黒田総裁のあとを引き継ぐ後任人事についても、政府が検討を本格化するものとみられます。
黒田総裁は2%の物価目標を2年程度で実現するとして国債などの買い入れを大幅に増やし、市場に大量の資金を供給する政策を打ち出しました。
「黒田バズーカ」とも呼ばれた大規模な金融緩和で円安と株高が進み、マイナスで推移していた消費者物価指数の上昇率もプラスに転じました。
しかし、その後も大規模な金融緩和を続けたものの、物価上昇率は目標の2%には届かず、2016年1月、日銀史上初めてとなる「マイナス金利政策」の導入に踏み切ります。
金融機関から預かっている当座預金の一部にマイナスの金利を適用するもので、世の中に出回るお金の量を増やすねらいがありましたが、
金融機関の収益や資産運用などが圧迫されるなどの「副作用」を指摘する声が次第に強まっていきました。
こうした中、日銀は2016年9月、大規模な金融緩和を継続しつつ、短期金利をマイナスにしたうえで長期金利をゼロ%程度に抑えるという金融政策を導入し、今もこの枠組みを続けています。
おととしには新型コロナウイルスの影響を受けた経済を下支えするため、国債や複数の株式をまとめてつくるETF=上場投資信託などの買い入れの上限を一段と引き上げるなど、
金融緩和を続けましたが、これまで2%の物価目標を達成できていません。
黒田総裁が率いる日銀は、金融緩和と円安などのはざまでジレンマに陥っている状況です。
原油や金属、穀物など原材料価格が高騰している影響でガソリンや食料品などさまざまな製品やサービスが値上がりしていて、消費者物価指数の上昇率は今月以降、日銀が目標としてきた2%に達するという見方が強まっています。
しかし、黒田総裁は、賃金の上昇や需要の増加を伴っていないなどとして「金融引き締めは景気を後退させる懸念があり、適切ではない」と述べ、景気の好循環を作り出すまで粘り強く金融緩和を継続する方針を示しています。
日銀が金融緩和を堅持する方針を示す一方、アメリカは歴史的なインフレを抑制するため中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が利上げを急ぐ姿勢を強めています。
日銀が金融緩和を堅持する方針を示す一方、アメリカは歴史的なインフレを抑制するため中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が利上げを急ぐ姿勢を強めています。
こうした日米の金融政策の方向性の違いによって、外国為替市場では日米の金利差が拡大していくことが強く意識され、円安ドル高の加速につながっています。
特に日銀が先月、長期金利の上昇を抑えるため、一定の期間、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「連続指値オペ」と呼ばれる措置に踏み切ったことは、日銀が金融政策を堅持する表れとして受け止められ、円安が加速しました。
この1か月で10円も円安ドル高が進み、先月28日にはおよそ6年7か月ぶりに1ドル=125円台をつけました。
今後も日米の金融政策の方向性が変わらなければ、円安傾向が続くという見方も出ています。
黒田総裁は「円安は全体としては日本経済にプラス」という立場ですが、原材料価格が高騰する中でさらに円安が進めば輸入物価が押し上げられ、さまざまな製品やサービスの一段の値上がりにつながり、家計や企業収益が圧迫されマイナス面が大きくなる懸念も出ています。
黒田総裁は金融緩和を継続する方針を示していますが、そうなるとさらに円安が進み、景気悪化につながりかねないリスクがあります。
一方で物価上昇を抑えようと金融引き締めに転じれば、賃金上昇や需要増加が実現しないまま、金利上昇など通じて景気を後退させるリスクがあります。
つまり、どちらを選択しても景気悪化につながるおそれがあり、政策のかじ取りが極めて難しくなっています。

 

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。

既存ユーザのログイン